院長こらむ:精巣のお話 その3

 今回は、射精の仕組みについて述べたいと思います。射精とは、精巣で造られた精子を体外へ放出することです。これは、元来、生殖のためのもので、哺乳動物に限らず、雌雄で生殖をなすものは、すべて、オスに備わった能力です。ただ、ヒトの場合、快楽をともなうため、生殖はごく限られたときだけで、古来より、主に快楽を求めた最終行為です。愛をともなうときもあれば、単に男のエゴのための場合もあります。 ヒトの射精のときに放出される精液は、多くは前立腺分泌液で、これに精巣から運ばれた精子が混じったものです。前回も解説しましたが、精子の片側の輸送路を簡単に説明します。(下記写真参照)精巣で造られた未熟な精子は、精細管というごく細い網目状の管に集められ、管は1本となって、精巣上体(以前は副睾丸と呼ばれたもので、精巣の横にくっ付いた唐辛子状をしたもの)の中をどぐろを巻くように(全長約5~6m)進みます。この管の中で成熟精子となります。精巣上体の先端は精管となり、陰嚢内から鼠径部(脚の付け根)へ進み、骨盤内を反転して膀胱裏から前立腺内射精管へつながっています。ここまで進んできた精子は、射精のとき、前立腺分泌液と混じって尿道内へ放出されます。この精子の道のりは、実に約7~8mと驚くべき長さです。 さて、射精はどのようなメカニズムでおこるのでしょうか。性的興奮は、視覚・臭覚・触覚などによりもたらされます。視覚・臭覚だけでは、なかなか射精まで進展しませんが、ペニス皮膚の触覚により起こされたシグナルは強烈で、神経(陰茎背神経・陰部神経)を介して脊髄中枢まで伝達されます。個人差がありますが、しばらくの間は、脳中枢より抑制されています。抑制できない伝導になったとき、脊髄中枢より交感神経の強烈なシグナルが抹消に向かって発信され、精管の収縮・前立腺被膜の強烈な収縮(これが射精感を生じる)で射精が起こります。精液が尿道より勢いよく放出されるのは、同時に膀胱の出口(膀胱頚部)も閉じるからです。
 射精は、交感神経の興奮ですから、同時に血管も少なからず収縮すると思われます。ということは、血圧も上昇することも多いでしょう。高血圧のひとは、気をつけましょう。腹上死にならないためにも。また、射精感はあるのに、精液が出ないことがあります。多くの場合、膀胱頚部が十分に閉じらず、膀胱の中へ逆流するためです(逆行性射精)。これは、泌尿器科でよく使う前立腺肥大症の薬を服用中に起こることがあります。排尿困難を改善するため、尿道を開く作用のある薬(交感神経しゃ断薬)が前立腺肥大症のポピュラーな薬です。この効果で、射精時、膀胱出口が充分に閉じなくなります。”最近、精液がでなくなりました”と悩み相談を受けることがたびたびあります。それだけ、最近のご高齢の方は、”お元気”です。
 院長室の主です。柴犬8才。