院長こらむ:膀胱のお話 その4

今回は、膀胱の機能およびその障害を総論的に述べてみたいと思います。膀胱の働きは、大まかに二つの機能を持っています。腎臓で作られ、尿管を通って流れ込んできた尿を、苦痛なく、ある量を貯めておく働き(蓄尿)と、貯めた尿を一定量以上になったところで、”おしっこをしたい”と感じ、気持ちよく排出する働き(排尿)です。膀胱にいろいろな異常が起こると、この一連の作用が破綻し、いろいろな症状が現れてきます。
 まず、普通ならまだ蓄尿している時間中に、膀胱内圧が急に上昇することが起こる(排尿筋不随意収縮)と、おしっこが我慢できなく(尿意切迫)たびたびトイレに行くようになり(頻尿)、時に、トイレに間に合わず、漏れてしまう(切迫性尿失禁)ことになります。最近は、原因のいかんにかかわらず、これらの症状があったら、過活動膀胱と呼んでいます。原因がはっきりしないものが多いようですが、特殊なものとして、尿道の閉塞疾患(前立腺肥大症や女性に多い尿道過活動など)や、脳出血後遺症、脳梗塞後遺症、脊髄損傷などによる排尿筋過反射が原因となります。また、膀胱が十分に広がらない状態のときもこれらの症状が起こります。原因に膀胱の放射線障害(放射線性膀胱炎)膀胱結核、間質性膀胱炎などがあります。
 次に、膀胱に尿が多く貯まっても、膀胱が緩んで膀胱内圧が上昇しない状態(排尿筋の低活動)があります。症状として、排尿困難となり、全く出なくなったり(尿閉)貯まりすぎて漏れ出る(溢流性尿失禁)ことになります。原因として、神経の伝導障害を起こす病気(仙骨形成不全、ヘルペス、癌浸潤、骨盤内手術後、糖尿病など)です。また、膀胱排尿筋の損傷によっても起こります。膀胱が広がらない原因となった結核や放射線障害は、逆に筋障害で弛緩性膀胱になることもあります。おしっこを我慢しすぎて(膀胱過伸展)も出なくなることがありますので、ご注意ください。昔、高貴な婦人は人前で排尿が自由に出来ないため、膀胱の過伸展が慢性的になり、弛緩膀胱になっていた(貴婦人膀胱)と何かの本で読んだことがあります。その他に薬剤の副作用(神経が排尿筋に働くところを弱くする:抗コリン作用)でも起こります。代表的なものとして、精神病の薬、咳止めや痒み止めの薬です。実際、前立腺肥大症の方が、風邪薬を服用され、尿閉になって受診されることが稀ではありません。
 一般に女性の方が、頻尿や尿失禁などの蓄尿障害が多く、男性は、前立腺が膀胱の出口に関門として存在し、しかも尿道が長いため、排出障害が多いようです。