院長こらむ : パンデミック(pandemic) その3(黒死病)

日本での新型コロナウィルス感染状況は、緊急事態宣言の期限まで期待したほどの収束は見られず、緊急事態宣言はさらに5月31日まで延長されました。それでも徐々に感染拡大のスピードは低下しているのも事実です。しばらくは社会活動自粛が続きますが、ここが辛抱のしどころです。

さて、人類史上、最初の重大なパンデミックは、14世紀のペストの大流行です。皮下出血のため、肌の色が黒ずんで亡くなる人が多かったので別名、黒死病とも呼ばれました。ペストはドイツ語(pest)で、英語では、the  plague  と言い、意味は伝染病そのものです。それほどパンデミックの代表的な疾患ということです。このペストの病原菌(ペスト菌)は1894年なってやっと発見されました。その共同発見者に日本の北里柴三郎がいます。14世紀のペスト菌によるパンデミックも発祥は中国で、モンゴル帝国の勢力拡大(交易)により、中央アジアからクリミア半島を経てシチリア島に上陸し、瞬く間にヨーロッパ全土へ拡大と、今のコロナ騒動と不思議と類似しています。このパンデミックは14世紀末までに3回の大流行があり、全世界で8500万人、ヨーロッパでは、全人口の3分の1から3分の2に当たる約2000万人から3000万人が死亡したと推定されています。当時、原因がわからず、死に至る病気への恐怖から魔女狩りやユダヤ人へのいわれなき迫害という狂気が横行したと言われています。今回のコロナ騒動でも感染に対する理不尽な差別が起こっているそうです。愚かな行動は慎みましょう

ペスト菌は野ネズミなどのげっ歯類小動物で伝播され、それを吸血するノミが媒介しヒトに感染させます。感染したヒトは、臨床症状として3タイプに分けられています。1)腺ペスト:感染したペスト菌はリンパ節で捕らえられ、増殖し、著明なリンパ節腫大が起こります。それに加え、発熱、頭痛、悪寒、全身倦怠感などの症状が現れます。2)敗血症型ペスト:血流にペスト菌が入ると全身播種し、敗血症(ショック、昏睡、手足の壊死、皮下出血など)を起こし、数日で死亡すると言われています。これが黒死病です。3)肺ペスト:腺ペスト末期、敗血症の経過中、菌が肺に侵入し肺炎を起こします。肺胞が破れ、ペスト菌を含んだ血痰などを飛沫すると、ヒトーヒト感染となります。最も重篤な状態です。通常、肺ペスト発症後24時間以内に死亡すると言われています。

WHOによればペストは21世紀になっても2004~2015年間で56734名の患者が発生し4651名が死亡しています。ただし、衛生管理が行き届いた先進国では、まれな感染症となっています。また、抗菌剤による十分な治療ができますので恐れる必要はありません。今回の新型コロナウィルスによるパンデミックは、その全貌がわからず、治療法(ワクチン、抗ウィルス剤など)も確立されていませんので大変なことになっていますが、近い将来、収束に向かい、治療法が開発されれば普通の感染症の一つになるでしょう。

ホテル立山:標高2450mに建つホテルです。6月初旬でも雪に覆われていました。

立山(雄山)3015m